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最高裁判所第一小法廷 昭和44年(オ)571号 判決

上告人

権田みな子こと

李武生

代理人

熊沢賢博

被上告人

右代表者

西郷吉之助

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人熊沢賢博の上告理由について。

被上告人の上告人に対する本訴請求権すなわち、被上告人(所管庁松本労働基準監督署)が、訴外鬼頭兼男に対し労働者災害補償保険法に基づき療養補償費および休業補償費の保険給付を行なつた結果、同法二〇条一項の規定によつて取得した同訴外人の上告人に対する不法行為に基づく損害賠償請求権は、私法上の金銭債権であつて、公法上の金銭債権ではないから、その時効による消滅については、会計法三一条一項にいう「別段の規定」である民法の規定が適用されるものと解すべきである。それゆえ、本訴請求債権は、会計法三一条一項の規定する時効の利益を放棄することができない旨の制限に服するものではない(最高裁判所昭和四〇年(オ)第二九六号同四一年一一月一日第三小法廷判決、民集二〇巻九号一六六五頁参照)。したがつて、本訴請求債権について時効の利益の放棄を認めた原審の判断は、正当として是認することができる。その他原判決に所論の違法はなく、論旨は採用するに足りない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(大隅健一郎 入江俊郎 長部謹吾 松田二郎 岩田誠)

上告代理人の上告理由

第一点〈省略〉

第二点 原判決は判決に影響を及ぼすことの明らかな法令の違背がある。

すなわち被上告人の本訴請求債権は金銭の給付を目的とする国の債権であるところ、会計法第三一条第一項によれば「金銭の給付を目的とする国の権利の時効による消滅については、別段の規定がないときは、時効の援用を要せず、またその利益を放棄することができないものとする。」と定められており、本訴請求債権につき右法条の適用を排除すべき旨定めた規定(別段の定め)がないから、時効完成と同時に被上告人の請求権は消滅したものと云うほかない。

しかるに原判決が上告人の時効利益の放棄を認定したうえ控訴を棄却したのは右会計法第三一条第一項の適用をしなかつたか、或いは本訴債権は「別段の定め」により右条項を適用すべきものでないと解釈したかのいずれかであつて違法であり、その解釈、適用の誤りが判決に影響を及ぼすことは明らかであるから破棄を免れない。

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